妄想金魚


●強い奴が生き残るのだ

「僕の分も生きるんだよ。」

一つの小さな命が消えた。
この世界では生命力の強い奴しか生き残れないが、この悪い状況下で死んでしまうのも無理はない。

僕達は金魚掬いの金魚としてこの世に生を享けてから覚悟は決まっていたし、僕達は何もする事はできない。ただ自分の生命力に賭けるだけだ。

あとは良い飼い主と巡り会う事なのだけど、良い飼い主とは2種類あって、一つはもともと金魚が好きで、世話の大変さを承知した上で可愛がってくれる飼い主。もう一つは勢いで金魚を買うが、そのうち金魚に魅了され可愛がってくれる飼い主。


・・・彼女はどっちのタイプだろうか。後者であって欲しいと強く願うのだが、はて。



「うわ〜ん!!金魚が一つ死んどるで!!」

彼女はそう言うと調理用の長い箸を取りに行き、水槽の中に突っ込んだ。

彼女は潔癖症なのか?なるべく水槽に手を浸けないように調理用の箸を動かしていた。

そんなんじゃ届くわけがないのにね。無理無理。

彼女は指が水面に浸ると、少し嫌そうな顔をした。
何度か繰り返し、ようやく死んだ仲間を箸で徐に摘むと、まるで汚いものを触れるような面持ちで死んだ仲間をじっと見るのだ。

そしてそっと死んだ仲間をティッシュに包むと

「ごめんね」

と声をかけた。


ホッ・・食べるのかと思った。彼女なら食いかねないしね。


それから毎日3〜4匹のペースで仲間が死んだ。わー!!

彼女は相変わらず調理用の長箸で死んだ仲間を摘むが、要領を覚えたようで幾分手際が良くなっていた。
(こういう事には上手いらしい)


しかし・・・だいたい汚いと思うくらいなら『調理用の長箸をまた洗って料理に使うなよ』と僕は言いたいのだ。

ほんとに潔癖症か?と思うような行動が僕にはさっぱりわからないのだ。

あ・・また仲間が死んじゃった。

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